聴きなれた音楽がどんな音に変貌するのか。
新しいオーディオ機器を接続するときはいつも、嬉しさと冷静さが入り混じった感情に支配されます。聴きなれた音楽がどんな音に変貌するのか、という期待感と喜び一杯の頭の中で、INとOUTを間違えないように指差確認を行う冷静な部分が片方の頭を占めています。そういう時間を過ごしているとき、オーディオは本当に大人の趣味だと思うわけです。一方、子供がゲーム機のコードを乱暴に接続する様子を見るのは嫌いです。メカやテクノロジーに対する敬意もへったくれもなく、スイッチを入れる前から頭の中にゲームのキャラクターが飛び回っている様が、手に取るように判るからです。
果たしてその音楽は最良の音で鳴っているか。
文化のあり方として、過程をないがしろにする行為や考え方は品格に欠けています。フライ
パンから直接パスタを掬って食べているようなもので、行儀のいい行いではありません。最近、
電車の中で携帯音楽プレーヤーをいじっている人を見ると、どうもこのゲーム機を乱暴に扱う
子供の姿と重なってしまいます。彼、彼女らは好きな音楽を聴いているのだろうけど、果たし
てその音楽は最良の音で鳴っているのだろうか? ビートやリズムばかりが強調された音を聴
き続けて疲れないのか? 家で聴く音楽もパソコン内蔵スピーカーで満足しているのではない
だろうか? と、老婆心ながら心配になるのです。それではファストフードの食事で満足して
いるのと同じではないかと。
なんて豊かで柔らかな鳴りなんだろう。
今回、新作『Dynaudio xeo』を自宅で聴かせていただく機会をいただき、自室のパソコン用モニターとして視聴させていただきました。最初に鳴った音を聴いてのけぞりました。なんて豊かで柔らかな鳴りなんだろう。同時にリモコンを使ったコントロールのしやすさも印象的です。トランスミッターをかませたセッティングも簡単で、説明書によるとメインでもサブでも使い方はお好みのまま。正直、アンプ内蔵のスピーカーシステムがこれほど進化しているのは驚きでした。Dynaudioの音がいいのは知っていましたが、このサイズでこれだけ鳴るのは予想を超えています。室内インテリアとの関連性を考えても、トランスミッターで飛ばすこのシステムは、音響的な環境作りにかなり効果的に機能するのではないでしょうか。
いい音で音楽を聴くことは大人のたしなみ。
パソコンの中に溜めた音楽を聴くのは簡単です。パソコンのスピーカーから聴くことが出来るし、ヘッドホンを挿せばそこから音が鳴ります。デスクトップに置く簡単な専用スピーカーもたくさん発売されています。しかし、音楽は本来、音色までも含めての文化。子供の練習用とストラディバリでは、同じバイオリンでも出てくる音が異なるもの。音が出てくるまでの過程をどれだけ大切に出来るのかで、耳にする音楽の質が変わってくるのは揺るぎない事実なのです。『Dynaudio xeo』を購入された方は、セッティング段階から改めてオーディオシステムの大切さを知ることでしょう。「大人になったらいい音で音楽を聴く」というスタンスは、成熟した人間のたしなみとして身に付けたいものです。
●プロフィール
土居輝彦:ワールドフォトプレス編集ディレクター
1982年よりワールドフォトプレス、monoマガジン編集部へ。1984年~2004年まで同誌
編集長。2004年、同社編集局長に就任。宝飾品&ファッション・ブランドの「クロムハーツ
マガジン」や、三井デザインテックとの共同編集によるインテリア&デザイン雑誌「Loro」など、
新しい出版物を創刊し、現在も新雑誌の開発に余念がない。2012年9月には4年がかりの大作
「原宿ゴローズ大全」を出版。主な著書に「機能する道具、傑作品」(グリーンアロー刊)、
「築35年古家再生」(ワールドフォトプレス刊)など。日本大学卒 1955年長崎県生まれ